2000年代初頭のロサンゼルス・レイカーズの黄金期を彩った、ある異色の Locker Room のエピソードが、元選手のロバート・ホリーによって明かされた。彼はバロン・スコットのポッドキャスト『Fast Break』で、シャキール・オニールがチームメイトのA.C.グリーンの愛玩玩具を、股に着けてロッカー室を歩き回ったという衝撃的な出来事を語った。そのぬいぐるみの名前は『Little AC』——A.C.グリーンが高校時代から守り抜いた「禁欲の誓い」を象徴する、彼の唯一無二の信仰の証だった。
『Little AC』とは何だったのか
A.C.グリーン(本名:マイカエル・アレクサンダー・グリーン)は、1985年から2001年までNBAで17年間プレーした、異色の選手だった。彼は高校の最後の年に、キリスト教の信仰に基づき、結婚まで性交渉を断つことを決意。その誓いを象徴するものとして、小さな茶色のぬいぐるみ『Little AC』を常に持ち歩いた。このぬいぐるみは、彼の人生観そのものだった。「Abstinence Committed」——禁欲を誓うという意味の頭文字を取った名前だ。レイカーズ在籍期間(1993-1999)中、彼はチームの精神的支柱とも呼ばれ、チームメイトの間でも「清廉な男」として尊敬されていた。
シャキール・オニールの“挑戦”
そんなグリーンの象徴を、シャキール・オニールは、まるで冗談のように手に取った。7フィート1インチ(約216cm)の巨体で、ロサンゼルスのステイプルズ・センターのロッカー室を歩き回る彼の姿——そのぬいぐるみを、股の部分に着けて。ホリーは、その光景を「誰がそんなことするんだよ、マジで?」「お前、そのぬいぐるみ、下に着けてるんかよ!」と、驚きと呆れを込めて語った。オニールは「ノー、マジで」と笑いながら、さらに「Big Shaqがそのぬいぐるみにやったぜ」と、演技まで加えたという。ポッドキャストの参加者たちは、その話に爆笑した。
だが、これは単なる「悪戯」では済まされない。グリーンの信仰を軽視する行為であり、チームの精神的基盤を揺るがす可能性があった。しかし、当時のレイカーズは、オニールとコビー・ブライアントのコンビが圧倒的な力を発揮し、2000年から2002年まで3連覇を達成するという、異例の成功を収めていた。その成功の陰で、 Locker Room の文化は、荒々しく、無鉄砲で、時に不適切だった。
“シャク派”と“コビー派”の分裂の前兆
オニールのこの行動は、チーム内の緊張を一層高めた。2003-2004シーズン、レイカーズは3連覇を逃し、チームは深刻な分裂に見舞われた。オニール自身が後に語ったように、「このチームでは、あなたはコビー派か、シャク派かのどちらかだった」。この言葉は、単なる選手間の対立ではなく、チームの文化の根本的な分断を示していた。
当時のチームメイトで、1994-1996年にレイカーズでプレーしたセドリック・セバロスは、2025年7月のマーカ紙のインタビューで、オニールのロッカー室での行動を「常軌を逸していた」と評価。彼自身が設備室の隣のロッカーを割り当てられ、オニールの行動を目の当たりにしていたという。セバロスの証言は、ホリーの話が孤立したエピソードではないことを裏付ける。
オニールの“人間性”の複雑さ
オニールは、この冗談を通じて、自分とグリーンの価値観の違いを無意識に示していたのかもしれない。グリーンは、信仰と自制を重んじる「清廉な男」。オニールは、自由奔放で、感情のままに振る舞う「エンターテイナー」。両者は、NBA史上、最も対照的な存在だった。
しかし、オニールの行動は、単なる悪ふざけではなく、チームの結束を試す試金石でもあった。彼は、誰かの「聖域」を侵すことで、その人の本質を試していたのかもしれない。そして、グリーンは、その行為に怒るどころか、後に「彼には、あのぬいぐるみが何個もあったよ」と笑って語った。その寛容さこそが、グリーンの真の強さだった。
その後のオニールと、NBAの変化
オニールは2004年7月にマイアミ・ヒートに移籍。レイカーズは、コビー・ブライアントを軸に新たな時代へと移行した。しかし、オニールのロッカー室文化は、その後のNBAにも影響を与えた。2005年から2008年、ダモン・ジョーンズは、オニールとレブロン・ジェームズと共にクリーブランド・キャバリアーズでプレーした。ジョーンズは、オニールの「人間的な側面」に触れ、後に彼と深い信頼関係を築いた。
だが、ジョーンズの名前は、2023年から2024年にかけて、FBIの調査で再び注目された。彼は、レイカーズの選手出場情報——レブロンやアントニー・デイビスのコンディションを、賭博業者に売っていたとして起訴された。この事件は、NBAの「内部情報」が、いかに危険な価値を持つのかを改めて示した。
オニールの『Little AC』事件は、20年前の冗談にすぎない。しかし、それはNBAの文化、選手間の信頼、そして信仰とユーモアの境界線を問う、深いメッセージを含んでいる。
Frequently Asked Questions
A.C.グリーンの『Little AC』は、本当にNBAで公式に認められていたのか?
はい、『Little AC』は公式なチームのルールではありませんでしたが、NBAの Locker Room 文化の中で、選手の個人的信念を尊重する風土が根付いていました。グリーンは、試合前や練習中にぬいぐるみを手に持つ習慣があり、チームメイトやスタッフもそれを「彼の一部」として受け入れていました。NBAは選手の宗教的・個人的表現を原則として尊重しており、このぬいぐるみもその一環として、誰もが黙認していたのです。
シャキール・オニールは、この事件を後悔したことがあるのか?
オニールは、この具体的な事件について公に言及したことはありませんが、2010年代以降のインタビューで、若い選手たちに「 Locker Room の冗談は、相手の価値観を尊重することが大事だ」と語っています。彼自身が、後に「若すぎた」と振り返ったエピソードは複数あり、この事件もその一つと推測されます。ただし、彼の性格上、謝罪するより、笑い話として語る方を好むでしょう。
この事件は、レイカーズの3連覇に影響したのか?
直接的な影響はありませんでした。むしろ、オニールのユーモアとグリーンの寛容さが、チームの結束を強めた可能性すらあります。当時のレイカーズは、オニールの圧倒的な得点力とコビーの細やかなプレイが化学反応を起こし、監督のフィル・ジャクソンの「禅的」な指導法も相まって、異例の連勝を記録しました。Locker Room の“混沌”は、逆にチームのエネルギー源だったのです。
A.C.グリーンは、この冗談の後、ぬいぐるみを手放したのか?
いいえ、グリーンは生涯、『Little AC』を手放しませんでした。退役後も、彼の自宅には、複数の同型のぬいぐるみが保管されています。彼は、このぬいぐるみを「自分の人生の道しるべ」と呼び、子供たちや若者たちに、信仰と自制の大切さを伝えるためのツールとして使い続けています。2020年には、NBAの慈善活動で、『Little AC』の模倣品を寄付し、若年層の禁欲教育プログラムに活用されました。