インドネシア無償給食で鶏卵価格上昇、国家予算の10%を食い込む

インドネシア無償給食で鶏卵価格上昇、国家予算の10%を食い込む
26 11月 2025
坂田 祐人 0 コメント

2025年11月第2週、インドネシアの鶏卵価格が前月比0.32%上昇した。小さな数字に見えるが、インドネシア中央統計局が内務省のインフレ抑制調整会議で公表したこの数字は、国民の食卓を直撃する大きな波紋を呼んでいる。その原因は、プラボウォ・スビアント政権が2025年1月に始めた大規模な無償給食プログラム——Makan Bergizi Gratis(MBG)——だ。朝食に卵、昼食に卵、夕食にも卵。学校や保健所で提供される1日1万ルピア(約90円)の食事の中心に、鶏卵が据えられた瞬間、市場は動き始めた。

“卵のない給食”はありえない

MBGは、幼児から高校生、さらに妊婦・授乳婦を対象に、全国で約1,500万人に1日1回の栄養バランスの取れた食事を無料提供する政策だ。当初の予算は71兆ルピア(約6,000億円)だったが、2025年5月までに171兆ルピア(約1.7兆円)に倍増。政府は、2025年7~8月にもさらに追加予算を拠出する可能性を示唆している。その結果、全国約2,000の協同組合が食材調達に駆り出され、米、野菜、魚、牛乳、そして何より——鶏卵——の需要が急増した。

“卵はタンパク質の王様。給食に欠かせない。”と、ジャカルタ郊外の給食センターの担当者は語る。だが、その王様の価格は、飼料費の上昇や鶏の飼育頭数の追いつきの遅れと重なり、じわじわと上がっている。特に、ジャワ島中部や東部のMBG実施地域では、小売店での卵価格が前年同月比で最大12%上昇。家庭で卵を買う主婦たちの間では、「今月は卵を2個に減らした」という声が広がっている。

国家予算の10%を食う“栄養革命”

政府の野心は、MBGを2025年末までに全国8,300万人に拡大することだ。その場合、5年間で総予算は450兆ルピア(約4兆円)に達すると試算されている。これは、インドネシアの国家予算の約10%に相当する。過去に類を見ない規模の社会福祉プログラムだが、その財源はどこから?

政府は「経済活性化の効果」を強調する。食材調達で地域農家や漁協が潤い、約30万人の新たな雇用が生まれるという。だが、インドネシア農水省の関係者は、冷静にこう指摘する。「雇用は生まれるが、物価は上がる。農家は売れるけど、消費者は買えなくなる。このバランスが崩れたら、政策は失敗だ」。

財務省内部では、すでに「所得に応じた自己負担制度」の導入が検討され始めた。例えば、月収500万ルピア以上の家庭には月1万ルピアの負担を求める案が浮上。一部の地方自治体は、すでに「MBG対象者に限って、卵の提供を週3回に減らす」という調整を始めたという。これは、単なる節約ではない。予算の限界を直視した、現実的な軌道修正だ。

世界の卵価格高騰と重なる“インドネシアの危機”

インドネシアの卵価格上昇は、単独の現象ではない。米国では、米国農務省(USDA)が2024年7月に発表したデータで、高病原性鳥インフルエンザの影響でカリフォルニア州の卵価格が2024年末までに70%上昇すると予測された。欧州でも、ロシアのウクライナ侵攻による飼料輸入コストの高騰が、卵価格を押し上げている。

日本でも、2023年9月時点で547自治体が学校給食の無償化を実施しているが、唐津市(佐賀県)は2025年8月の広報誌で「食材価格高騰により、給食費を改定し、購入費を確保する」と明言。無償化は「絶対的支援」から、「持続可能な支援」へと、世界中で転換期を迎えている。

インドネシアは、世界最大の島国であり、人口1億4,000万人の食を支える国だ。MBGは、貧困層の子どもたちに「栄養の権利」を保障する、まっとうな政策だ。だが、政策は理想だけでは回らない。卵が1個1,500ルピアから2,000ルピアに上がれば、1日300万食の給食で、毎月15兆ルピアの追加コストが発生する。政府は、この数字をどう受け止めるか。

次のステップ:誰が、どう支えるのか

次のステップ:誰が、どう支えるのか

2026年、MBGは第2段階に入る。政府は、鶏卵の生産量を20%増加させるため、養鶏場への補助金を拡充すると発表した。だが、その補助金は、結局、国民の税金から出る。誰が、どの程度、支えるべきなのか——その問いが、今、インドネシアの社会全体に投げかけられている。

「子どもたちに栄養は必要だ。でも、そのために親が食費を切り詰めるのは本末転倒だ」——ジャカルタの母親、アリファの言葉は、多くの人々の心に響いている。

Frequently Asked Questions

MBGプログラムの鶏卵需要増は、なぜ価格に直結したのか?

MBGは1日約300万食を提供し、その多くに鶏卵が含まれている。当初の予想を上回る需要が一気に発生したため、飼料供給や鶏の飼育サイクルが追いつかず、市場の需給バランスが崩れた。特に、卵は冷蔵保存が難しく、在庫調整ができないため、価格が即座に反応した。

インドネシア政府は、鶏卵の生産を増やせないのか?

政府は2026年までに養鶏場への補助金を拡充し、生産量を20%増やす計画だが、飼料の80%は輸入に依存している。大豆やトウモロコシの国際価格が高騰しているため、生産コストの上昇が避けられない。短期的な増産は可能でも、持続可能な価格安定には、インフラと輸入戦略の改革が必要だ。

他の国でも同じような問題が起きているのか?

はい。日本では唐津市が2025年8月、食材価格高騰を理由に給食費の改定を発表。米国では鳥インフルエンザで卵価格が70%上昇。EUも飼料費高騰で同様の課題に直面。無償給食は理念としては理想だが、グローバルな食料市場の変動と、財政の現実に直面している。

MBGの将来は?予算が足りなくなった場合、どうなる?

政府は2026年までに、所得に応じた自己負担制度の導入を検討中。高所得世帯には月1万ルピア程度の負担を求める案が浮上している。一方、予算がさらに削られれば、卵の提供頻度を減らす、代替タンパク質(豆類や鶏肉)を増やすなどの調整が避けられない。政策の持続可能性が、今、試されている。

坂田 祐人

坂田 祐人

こんにちは、私は坂田 祐人です。テクノロジーのエキスパートとして、最新の技術やイノベーションについて書くことが大好きです。人々がテクノロジーを理解し、活用する方法について情報を提供することに情熱を持っています。また、新しいデバイスやソフトウェアを試して、その機能や性能を詳しくレビューすることも楽しんでいます。私の目標は、テクノロジーが人々の生活をどのように向上させるかを共有し、広めることです。